ウクライナ危機PARTⅤ われはロシアなり プーチンを剥ぐ

ナショナルジオグラフィックCH「ライバルが暴く 真実と秘密」から

  • 大ロシアよ、もう一度」。金も権力も手に入れたプーチン、次は大ロシアを復興させた英雄として

19世紀末、ロシアの領土は、西はバルト海から東はアラスカに至るまで、全長9千6百Kmに及んだ。世界の全陸地の6分の1を占める大帝国となった。ソ連邦時代も周辺の他民族を属国化して衛星国家として支配した。ローマ帝国も他国を吸収し栄光と安定に包まれたローマ大帝国を築いた。

<プーチンの妄想>

腐敗した西側諸国から脱し、真に理想的な大ロシア帝国を復興させる。ロシアにはその使命がある。西側の毒に冒されたウクライナなどは荒療治であっても強制的に目を覚まさせないといけない。それができるのは強力なリーダーシップと使命感を理解している私(プーチン)にしかできない。それに反対したり抵抗したりする国は、ナチと同じで断固たる態度で排除していくしかない。国内外で迷ったり、十分理解できていない人々もいずれ私の考え、行動を理解するだろう。
時には非情な手段を行使しても使命達成のためには必要悪だ。

プーチンの妄想は身勝手な自己の野望達成と殺戮を正当化するための言い訳にすぎない。大ロシア帝国の復興のためには犠牲が出るのは仕方がないと、戦争犯罪行為を「大義のための必要悪」とすり替えているのだ。
戦闘員でない子供、老人、女性たち、無辜の民を無差別に殺戮するのは明確な戦争犯罪行為である。

頭のおかしな芸人が「プーチンにも正義がある」と公器であるTVで言ったそうだが、それは「大量虐殺にも大義がある」と同意語である。このような芸人を重宝がる日本のマスゴミもプーチン同様、正常感覚がマヒしているのだろう。

  • プーチンは野望達成には手段を選ばない

寡黙で用心深く本音を出さないプーチン。
ナショナルジオグラフィックCH「プーチン大統領が語る世界」から、彼が語る事の裏を推測してみよう。

<死ぬまでに何を成し遂げたかが大事だ>

暗殺未遂が5回あったという話から、インタビューアで映画監督のオリバー・ストーンが怖くないのかという意味を込めて、暗殺のために警護官になる者がいるかも、あなたの運命とは?と訊いた。
「人の運命は神のみぞ知るだ」
「安らかな死かな」虚勢を張っているプーチンにオリバー・ストーンが皮肉な解釈を返した。
「誰にでも必ず死が訪れる」ストーンの皮肉に怒りもせず余裕の態度で答えた。
「大事なのは何を成し遂げるかだ」


(ナショナルジオグラフィックCH「プーチン大統領が語る世界」から)

金も権力も手にいれ、ロシアを自分の好きなように動かすことができるようになった絶頂期のプーチン。独立国家共同体(CIS)協定に調印しておきながら、いまさら脱退してEUやNATOに寝返ろうとする裏切り者のウクライナ。偉大なるロシア復活の足かせになる連中は排除するしかない。

<チャンスは待つものではなく作り出すもの。無名から一気に人気政治家に躍り出る>

混乱のロシアでアル中のエリツィンに群がり、国営企業をタダ同然で手に入れたりして巨万の富を築いた新興財閥のオリガルヒたち。ロシア連邦の要職にも就き金の力で大統領でさえうまく操縦できると高を括っていた。

一方プーチンの狙いは違っていた。彼が手に入れようとしたのは最高権力だった。古巣KGBの後継機関FSBの長官に就任した1年後、大統領府に潜り込んだ。偶然なのか第1副首相に指名されたその日に、首相が退陣し、そのまま首相代行となり、すぐ首相となった。

エリツィンはもう限界だった。第二次チェチェン紛争も起きてこれ以上の大統領職務には耐えられない。アル中でろれつも回らないエリツィンは後継者となる首相を探していた。適当な候補がなかなか見つからなかった。オリガルヒとつるんで不正蓄財を行っていたので、捜査の手が伸びていたのだ。

そこへプーチンがエリツィンに近づき耳元でささやいた。
「大統領、私はFSBを掌握しています。検察もあなたの政敵プリマコフもチェチェンもコントロールできます」
「本当か!どうやって?」
「スクラトフ検事総長がレッド・スパロー2人の罠にかかってSEXスキャンダルで失脚したのを覚えていますか?」
「ああ、もちろん覚えている。あれで少し命拾いをした。だから君を首相に据えたのだ」
「だがいつまた火が付くか不安でしょう。安心して引退するにはあなた守ることができる実行力のある人物を後継者に指名すればいい」
「私の頭痛の種を解決してくれるなら、喜んで君を次期大統領に指名しよう。計画があるのか?」
「すでに準備は整っています。チェチェンも同時に解決します」


(ナショナルジオグラフィックCH「プーチン大統領が語る世界」から。
「私は・・辞めようと、任期満了の前に辞任を・・そうするべきだと気づいたのです」たどたどしい口調で辞任を表明するエリツィン)

<1998年>
7月 プーチュン、FSB長官に就任

 FSB(ロシア連邦保安庁):KGBの後継機関。米CIAに対抗するスパイ機関。盗聴、暗殺、毒殺、拉致、拷問、扇動、体制転覆、陥穽、何でもあり。

 <1999年>
3月  スクラトフ検事総長の女性2人とのSEX現場の映像がTV局に持ち込まれる。

8月 第二次チェチェン紛争が開始
8.9 プーチン、エリツィン大統領により第1副首相に指名。そのまま首相代行に。
8.16プーチン、首相に就任
8.31 モスクワ中心部:ショッピングモールで爆弾テロ(死亡1人、40人負傷)。


(「そいつを黙らせろ プーチンの極秘指令」著者マーシャ・ゲッセン。ロシア人ジャーナリスト、米に亡命中。
ナショナルジオグラフィックCH「ライバルが暴く 真実と秘密」から)

9.9  モスクワ・グリナノフ通り:集合住宅で爆破事件(死亡94人、164人負傷)。FSB工作疑惑
9.13 モスクワ・カシールスカヤ街道沿い:集合住宅で爆破事件(死亡119人)。FSB工作疑惑
9.16 ロシア南部・ヴォルゴドンスク:集合住宅で爆破事件(死亡17人、72人負傷))。FSB工作疑惑


(ナショナルジオグラフィックCH「ライバルが暴く 真実と秘密」から。何でもあり、手段を択ばないプーチン。自作自演?でチェチェンに侵攻)

9.23 ロシア軍がチェチェンの首都グロズヌイを無差別爆撃
10.1 ロシア軍の地上部隊がチェチェン侵攻を開始
12.31 エリツィンが辞任 プーチンを大統領代行に指名

<2000年>
3.26 
大統領選挙でプーチンが過半数を獲得して当選
5.7 プーチンが第2代ロシア連邦大統領に就任。

<2002年>
FSB元職員でイギリスに亡命し、猛毒ポロニウム210で暗殺(2006.11.23)されたアレクサンドル・リトビネ
ンコは、その共著のなかで「集合住宅連続爆破事件は、プーチンを権力の座に押し上げるためにFSBが仕組んだ」と暴露

<忠誠を誓い見返りを献上するオリガルヒは優遇、反抗するオリガルヒは潰す>

プーチンの反体勢力を構築しようとしたベレゾフスキー(石油財閥)やプーチン批判を始めたホドルコフスキー(金融財閥)はプーチンの怖さを過小評価していた。
2003年10月、状況が一変した。ロシア最大の富豪ミハイル・ホドルコフスキーを逮捕してその姿をTVにさらした。私に逆らえばこうなると明確なメッセージ発した。オリガルヒたちは慌てて帰国し逮捕しないようプーチンに頼み込んだ。
そして不気味な不審死が連続していた。


(ナショナルジオグラフィックCH「ライバルが暴く 真実と秘密」から)

  • だが抜け目のないプーチンの言い分は違う

・「エリツィンが私を選んだ理由はわからない」(不正隠しの交換条件だったとは言えないよ)

・「最初打診があった時は断った」(オリバー・ストーンも思わず「断った?なぜ?」)

・「オリガルヒを生んだ国有財産の無償貸与をやめさせた。民営化はやめない。より公平にするために。私の目標は民営化を止めることではなく、より体系的かつ公平にすることだ」
(簡単に言えば、私プーチンとシロヴィキ(治安国防官僚)に従順な者には公平な分配がある。君ら従順なオリガルヒが稼ぎ、力を持ち君らを守るわれら権力者にも利益を公平に分配することが大事だ)


(ナショナルジオグラフィックCH「プーチン大統領が語る世界」から)

<プーチンが恐れること>

本音をみせないプーチンだが、注目すべきは「最初は断った」という発言。
オリバー・ストーンも思わず「断った?なぜ?」と問い返した。筆者も、嘘つけプーチンと思った。プーチンは国の責任者になることは大変なことだという。ストーンが、あなたは官僚として長い経験があるので変わらないだろうと問い返す。全然違うとプーチンが強く否定。官僚なら友人と自由に合えて自分の仕事の範囲での責任を負えばいい。だがロシア1国の責任者となるとすべての責任を負うことになる、と。

ここまで聞いていても当たり前のことでどうもよく分からない。何がいいたいのかプーチン。そして次のプーチンの説明でどうやら「最初は断った」ということは嘘でも、「大統領職につく」ことに迷いがあったということを別の言い方で言っているのかと推測した。

「官僚を続けていけるのか、解雇されるのかもわからなかった」

エリツィンは「大統領代行にする」と言っているのに、なぜ「解雇されるかもしれない」という話がでてくるのか?

これは「大統領にする」という話ではないからだ。大統領代行になっても大統領選で負ければ、無職となる。つまり解雇されたのと同じだ。悪行の数々をしてきて多くの人から恨みを買ってきたプーチンにとって、ただの人になることは恐怖だったのだろう。そして次の発言でそれがはっきりした。

「私は1つのこと考えていた。“子供たちをどこに隠す?”
なぜ?とストーンが問い返す。
「考えてみてくれ。私が解任されたら護衛が外される。どうやって生きていく?どう家族を守る?

権力を無くすことはプーチンにとって最も恐れることなのだ。

だが本音を見せてしまったと気づいたのか、身を乗り出してしゃべるのを止め、イスの背に体を預けると本音を閉じ建前を説明し始めた。元の用心深いプーチンに戻っていた。
「だがこれも運命なら最後まで進もうと決めた」と結んだ。


(ナショナルジオグラフィックCH「プーチン大統領が語る世界」から)