2021.4.14公開記事
まずTVが流す嘘情報に騙されないこと。
◆ 嘘1:以前から、トリチウムは分離できないと喧伝していた
トリチウムの分離技術はかなり前から確立されている技術である。しかし手間とコストがかかるので、採算面から原発産業界から敬遠されているだけである。
2019年10月3日、ひるおび。
当該番組で、汚染水をALPS(多核種除去設備)を通してセシウムやストロンチウムなどを取り除き、トリチウム以外を除去した処理水が貯蔵タンクに約116万トンあるという(2019.9.19時点)。茨城大学・鳥養裕二教授のコメントとして「トリチウムはセシウムセシウムなどの放射性物質とは違い、水の形態で存在するので取り除けない」という間違った情報を発した。
だから海洋放出しかないという布石の1つである。
近畿大・東洋アルミの共同研究やロシア国営原子力会社ロスアトムなど、トリチウムの分離除去技術は既にある。国が予算を投入すれば解決する。詳細後述。
◆嘘2:5つの案から2つの案→そして海洋放出の案に。だがトリチウム分離案はいつのまにか消えていた
NHKのネット記事サイト、政治マガジンに「トリチウムとは?なぜ「海か大気中に放出」なのか?」(2019.12.23)というタイトルで次のような説明が出ている。
政府は、トリチウム水タスクフォース・チームに当初から科学的、技術的観点から検討させてきた。そしてH28年、5つの案(1海洋放出、2大気放出、3電気分解後・水素大気放出、4深地層注入、5セメント固化地下埋設)に絞った。最終的には2つの案(1海洋放出、2大気放出)が現実的で実績があると提言したとある。
これが詭弁であることは明らかである。トリチウム汚染水対策に最大限の努力を払った結果だというゼスチャーにすぎない。
なぜならトリチウム分離処分案がいつのまにか消えているからである。
原発由来の放射性物質で地球を長期にわたって汚染し続けるのは、トリチウム、クリプトン85、炭素14、ヨウ素129である。これらは長寿命核種だから地球環境に長く蓄積され拡散する。
政府はトリチウム汚染水対処が重要問題であることを意識してトリチウム水タスクフォースを立ち上げていた。
そして、スリーマイル島(TMI:Three Mile Island)事故、ハンフォード・サイト(マンハッタン計画でプルトニウム精製)、サバンナリバー・サイト(核施設、水爆の原料トリチウム製造)でのトリチウム水(Tritiated Water)の処分方法について情報を米エネルギー省(US DEPARTMENT OF ENERGY)から収集していた。それが下記の抜粋資料4枚(ほんの一部)。
①米エネルギー省表紙。
Presented to the Tritiated Water Task Force of the Committee on Contaminated Water Countermeasures
「汚染水対策委員会のトリチウム水タスクフォースに提供した資料」
②スリーマイル島事故のトリチウム処分。
Where did the tritium go? It was reduced by: トリチウムはどこへ? 以下の理由で減少した。
・radioactive decay (12 year half life), 放射性崩壊(12年半減期)
・used for decontamination; loss via evaporation; removed by ventilation system
除染に使用。 蒸発による損失; 換気システムにより減少
・via the air ejectors空気除去装置による
③ハンフォードでの低トリチウム濃度、高容量トリチウム水の処分。
Overall conclusion was that tritium removal technologies are not economically viable for the large volumes of water with low concentrations.
結論として、低濃度の大量の水ではトリチウム除去技術は経済的に実行可能ではないという結論に至った。
Deep well injection selected 深井戸注入を選択
④サバンナーリバーサイトのTritium Separation Processes(トリチウム分離プロセス)の中の1資料で、
Wiped Film Evaporator(トリチウム フィルム蒸着除去装置)の図解資料。
タンク数はハンフォードでは177基(但しトリチウムだけではなく廃棄物溶液)、スリーマイル島では約8基(最終水230万ガロンから:1タンク/1200立方m換算)とされている。
福島のトリチウム水と米国の核関連サイトのそれとの決定的違いは、
福島では毎日約140トンもの地下水が、破損した原子炉建屋に流入し汚染水が常時発生しているという現実だ。破損した福島1,2,3号機の現状を見て、2051年に廃炉(処分・解体:30年後)が完了すると本気で考えている人がいるとしたら余程の素人だ。
35年前に起きたチェルノブイリ事故。福島のように水没していない1機だけの燃料デブリ(象の足)でさえ未だ手つかずだ。
恐らく福島の廃炉は100年以上かかるだろう。つまり海洋放出を始めたらトリチウム汚染水を100年以上垂れ流し続けることになる。
2021.3.18現在の福島のトリチウム汚染水の容量は約125万立法メートル。
トリチウムを分離し、スポンジチタンなどの金属に凝縮吸収させ(燃料電池の原理)、固化して保管すれば、3立法メートルのコンテナ約60個を保管するだけでよい。(ロスアトム技術の場合)
トリチウムはベータ線放射だから紙1枚で遮断できる。固体化して地球環境に出さず120年間保管すれば安全になる。
経産省は一時期トリチウム分離処分の可能性を検討し、技術開発を世界に向けて公募していた。(詳細後述)
その痕跡がすっぽりと消されてしまっている。
◆嘘3:「世界の各原発でもトリチウムを海洋放出している。だから安全」という詭弁
上記の「嘘1」でも説明したように、世界の各原発からトリチウムが放出されているのは、トリチウム分離コストが高過ぎて採算に合わないからであって、安全だから放出しているのではない。
危険なトリチウムの後始末を採算が合わないからという理由でやらないのであれば、原発は動かすべきではない。放射能汚染の拡散を未来に先送りして、潤沢なエネルギーを今の世代だけで享受するのは無責任である。
1954年以前は、自然トリチウムの発生源は宇宙線による地球上層大気の窒素や酸素との核反応によるものだけであったが、1954年以降は大気圏内核実験が頻繁に行われ、人工生成トリチウム分が加わった。1963年に大気圏内核実験が中止されるまで、約400回近い核爆発が繰り返され、トリチウムだけでなくセシウム137、ストロンチウム90などのフォールアウトによる降雨、大気、食物、川・海水の汚染が世界的な問題になった。
核への反発が世界規模で沸き起こり、心配した核大国のアメリカなどが核の平和利用を唱え始めた。
原発が各国で建設され、原発由来のトリチウム放出が増加し、地球環境で汚染が拡大し続けている。
古い論文(1978年、日本地下水学会 川崎宏直氏)だが、宇宙線由来のトリチウム濃度は10TR(1TR=1/10**18:トリチウム/水素比)とされているが、この論文の発表時では
「降雨中のトリチウム濃度は数10〜1000TRまで不規則に増大」とある。中央値を取ったしても500TR、つまり単純な推測だが、43年前で既に人工生成のトリチウム濃度が24年間(=1978年-1954年)で50倍(=500TR/10TR)に増加したことになる。
◆嘘4:「自然界には既にトリチウムは存在している」という安全を想起させるTV報道。だが政府の専門家チ-ム間ではトリチウムの内部被ばくと体内濃縮への危険性を熟知しているのである。
TV(上記のひるおび)では、トリチウムは雨にも、飲料水にも、魚介類にも含まれている、普通に環境に存在しているので、そう恐れるものではないというムードをそれとなく伝えようとしている。また飲料水ガイドラインでは、1万ベクレル/リットルなので、これを守れば大丈夫。空気中でも紙一枚で遮ることが可能なほど弱い→皮膚の表面で止まるなど、トリチウムは安全な放射性物質、怖くないものという刷り込みをしようとしている。
ところが下図の黄色①にはとんでもないことが書かれている。TV報道とは真逆のことが!
上記の「嘘2」でも紹介した経産省トリチウム水タスクフォース山西敏彦氏(日本原研)が作成した資料(p337)で、p23から始まる(公財)環境科学技術研究所 柿内秀樹氏の「参考資料3」のp16(参考資料3の最終頁。全資料p337ではp38)の内容である。
「ヒトへの被ばく経路(トリチウムは内部被ばくが重要)」と内部被ばくの危険性を警告している。
怖いのはその後。経口摂取では「食物連鎖によるヒトへの移行」、「摂取したOBT(有機結合型トリチウム、トリチウムを含む食物のこと)による被ばく、組織への蓄積」つまり、食物連鎖の頂点にいる「ヒトへのトリチウム濃縮」を説明している。トリチウムの危険性を分かっているのだ。
トリチウムは水素の仲間、しかも自然界の元素で最も軽い。そのため同温なら他の気体分子より分子速度がかなり速い。熱伝導率が空気の約7倍である。海洋に放出されたトリチウムは蒸発し気体となり、放射性プルームとなって、温度変化や風により、大気拡散が促進される。
そのことを説明しているのが下図である。これも上記の経産省タスクフォース資料のP9に説明されている。つまり①にもあるように、呼吸からもトリチウムは入ってくる。飲食のように時間をおいて体に入るのではなく、呼吸による頻繁な体内接種のリスクが高い。
上記のTVひるおびの「皮膚の表面で止まる」という説明は、大きな誤解を生む表現である。
大気中に浮遊するトリチウムが崩壊するとベータ線を放出する。そのベータ線は弱いので皮膚で遮断できるという意味で挙げているのだろうが、実はトリチウムは皮膚からも吸収される。崩壊せずヘリウム3になっていないトリチウムは皮膚からも体内に侵入する。
水素は自然界で最も基本的な元素。人体の50〜75%は水分。水は一般的にH2Oだが、トリチウムが環境中に増加すると、水分子の水素がトリチウムに置き換わったHTOが増えていく。またタンパク質内のアミノ酸も水素結合が関わっているので、人体のトリチウム結合も増加する。トリチウムがベータ線を放射して崩壊すると内部被ばくとなる。トリチウムが体外にある場合は、ベータ線は透過力が弱いので問題はない。だが体内での放射は危険である。
◆嘘5:海洋放出は最初から決まっていた。IAEAも同意していた。
軍事力増強のための頻繁な核実験によるフォールアウト汚染で、世界世論が反発、原子力の平和利用による利益に人々の目を転換させるため、1953年の国連演説で、核大国アイゼンハワー米大統領がIAEA(国際原子力機関)創設を提唱した。つまり汚染対策のためにIAEAが設立されたのではない。
よって原子力利用の推進を目的とするIAEAが海洋放出に反対することはない。
今回の日本のトリチウム海洋放出表明に異論を唱えれば、世界の各原発でのこれまでの海洋放出容認と整合性が取れなくなる。
海洋放出は既定路線であり、上記の「嘘2」にある、5つの案→2つの案→海洋放出案という検討経過を辿ったように見せているのは、ただのゼシュチャー、セレモニー、世論への誤魔化しである。
それが証拠に、
2013年9月。2020オリンピック開催地決定(9月5日)が迫る中、東電による汚染水ダダ洩れ状態に世界の批判が集まり、東電監視役の当時の原子力規制委の田中委員長にも怠慢という視線が向けられた。9月2日、翌日の汚染水抜本的対策の発表を控えて、原子力規制委(環境省外局)の田中委員長は、外国特派員協会で記者会見を行い謝罪した。全て東電の責任で、汚染水問題を放置して政府が東電への資金投入を渋ったためであることは認めなかった。
そして「最終的には海洋放出以外に方法はない」との考えを示した。
(AFP BBニュース 2013.9.2 注:AFPは仏の最大の通信社で世界最古の報道機関Wiki)
また2013年12月4日。福島第1を視察したIAEA調査団。ファン・カルロス・レンティッホ団長は、
「一定の管理下での放水は世界中で行われている。・・・基準を下回るなら、海に放出すべきだ」と海洋放出を推奨した。
(朝日新聞DIGITAL2013.12.5)
◆嘘6:タンク増設は限界という嘘。隣接する敷地(環境省管轄)にはタンク1万1000基が設置できる。
「2022年夏にはタンクが満杯」
「もう時間がない」「決断のタイムリミット」海洋放出へ誘導する政府プロパガンダ情報。
だが東電タンク群のすぐ隣には、環境省が管轄する1600ヘクタールもの広大な中間貯蔵施設エリアが広がっている。
東電には莫大な税金が廃炉・除染・賠償等のために投入されている。口も金も海洋放出も政府主導で動いているのに、タンク増設についてだけは、東電の敷地内で解決せよと言うおかしな論理。
これも上記の「2022年夏にはタンクが満杯」という既定シナリオのための嘘である。
タンクを増設し、トリチウムの分離・凝縮・固化・保管などの設備・施設を設置すれば、福島の人も、日本国民も、世界の人も納得することになる。
TVは、政府の安全解決のための資金出し惜しみを批判せず、むしろ海洋放出が正論という政府プロパガンダを後押しする。破滅へ向かう大本営発表の復活である。
トリチウムの拡散は未来の人類の健康と生命を脅かすことになることは明白である。
(NHK「中間貯蔵施設に消えるふるさと。福島原発の街で何が(2019.9.19)」 ひるおび2019.10.3)