映画「テッド」、そしてその続編「テッド2」。ご覧になったあなたの評価は?
下品すぎる?、面白い?、セックスやマリファナなどを軽々しく扱いすぎている?、ブラックなシーンやセリフをうまくコミカルに処理している?、「お前はどうなんだ、管理人」、「私の評価? いいね!」
科学啓蒙TV番組「コスモス」は、有名なカール・セーガンがホスト役で登場し1980年に放送され世界的な大ヒット作となった。この続編が34年ぶりにナショナル ジオグラフィック チャンネルで作製され放映された。ご覧になられた方も多いと思うが、新ホスト役は天体物理学者のニール・ドグラース・タイソン博士。博士はNYにある米・自然史博物館に併設されているヘイデン・プラネタリウムの所長である。ご存知のようにこの博物館は世界最大規模で映画「ナイト・ミュージアム」の舞台にもなったところだ。博士はナショナル ジオグラフィック チャンネルの「スター・トーク」という番組でもホスト役をしている。この番組はヘイデン・プラネタリウムに毎回多種多彩なゲストを呼んで、「ポップカルチャーを科学する」という名目で軽妙で楽しいトークを放送している。
テッド」と「コスモス」とくれば勘の良い人は「セス・マクファーレンだな」と気づいただろう。そう、マクファーレンは「テッド」の監督・脚本・製作を手がけた人物。また新「コスモス」の共同制作者の1人でもある。番組「スター・トーク:アニメの科学」の中でマクファーレンをゲストに呼び録画対談をしている。受け答えのうまさや絶妙のユーモアを聞いていると非常に頭のいい才人だと思う。今後のハリウッド人の注目株だ。
- 新「コスモス」のホスト役決定の裏側。
この番組で新「コスモス」のホスト役に自身が抜擢された経緯をタイソン博士が次のように語っている。
全米科学アカデミー(NAS:全米の科学、技術、医学の3大・学術分野の内の科学分野で最高峰に位置する学術機関)が科学啓蒙促進を目的にハリウッドと提携するためLAに支部を立ち上げた。その初会合にタイソン博士が出かけるとマクファーレンも来ていた。初対面だったが彼の作品を知っていた博士が声をかけると「近々ランチでも」と返してきた。その時は博士もハリウッド流の社交辞令と思い気にもかけなかったそうだ。ところが数か月後にマクファーレンから電話があり、「近くにいるからランチを」と誘われた。思いがけない誘いにとまどいながらも「OK!予定はガラ空きさ」と返答してしまった。何を話そうかとあれこれ迷いながら博士はランチに出かけた。すると逆にランチのあいだ中、博士はマクファーレンの宇宙についての質問攻めに遭うはめになった。「ビッグバンはいつ?温度は?爆発の痕跡は残っている?」等々。まるで宇宙論を学ぶ学生のようで、よほど宇宙が好きなんだなと博士は思ったそうだ。そして半年後、その時に話したことが新「コスモス」のエピソードの1つになっていたそうだ。
タイソン博士(宇宙物理学)は2005年8月にドナルド・ゴールドスミス博士(天文学)との共著で「宇宙 起源をめぐる140億年の旅」という最新の宇宙科学に関する解説書を著している。読みやすくユーモアあふれる内容だ。この本の帯にはミチオ・カク博士(NY市立大学シティーカレッジの物理学教授)の賛辞のほかに、パブリッシャーズ・ウィークリー誌の賛辞にこうある、「20年以上前にでたカール・セーガンの「コスモス」以来、本書ほど最新の知見にあふれ、とっつきやすく、読んで愉しい一般向けの宇宙論書はなかった」とある。
タイソン博士は新「コスモス」番組のホスト役に抜擢されるとは思っていなかったようだが、マクファーレンの方はホスト役を誰にするか。専門知識があり分かり易く説明でき、しかもユーモアがあって親しみやすい人物を探していたのだろう。本著の訳者あとがきをみると、博士は既に合衆国の宇宙政策を諮問する大統領委員会のメンバーであることや、芸能雑誌上で「存命中の最もセクシーな宇宙物理学者」にも選出されていた。マクファーレンもその辺の調査をした上で、専門分野と一般視聴者とのかけ橋役の最有力候補として絞り込んでランチに誘ったのではないかと想像する。
- 才人セス・マクファーレンの傑作「ファミリー・ガイ」。
番組「スター・トーク:アニメの科学」の中で、マクファーレンが手がけた過激ギャグアニメ「ファミリー・ガイ」の何本かが紹介されている。すごく面白いのだが、人によっては過激すぎるかもしれない。「テッド」に通じる笑いがあるのでぜひ観てみたいと思い海外TV放送チャネル探してみたが、放送しているチャネルはなさそうだった。
このアニメに出てくる性悪で高い知能を持つ赤ん坊ステューウイー(映像的には3、4才児に見える)と、人間のように立ち振る舞いをして人語を流暢に話す犬ブライアンとが、かなり高度な科学ネタのギャグを展開する。ギャグに感心したタイソン博士はマクファーレンにアイデアの源泉について聞いてみた。彼は小さい頃、科学の成績は良くなかったが科学に興味を持ち、「ファミリー・ガイ」の原型は美術大学時代に作っていたようだ。
番組で放送されたアニメを紹介してみよう。例えば過去に戻り過去のブライアンに悪さをしようとするステューウイー。それを察知したブライアンが阻止しようと争っているうちに時空移動装置が壊れてしまい、時空連続体の外に放り出されてしまう話。さわりだけなのでどうやって元の世界に帰ったのかが気になる。別の話では「新スタートレック:ネクスト・ジェネレーション(TNG)」の俳優たちを呼び出す転送装置を作ったステューウイー。声優はすべてTNGに出演した本物の俳優が吹き替えをしている。ピカード艦長役のパトリック・スチュワートが「ここはどこだ?」と強制転送に不機嫌そう。呼び出したとたんに断わりもなく発言したという理由で保安部長ターシャ役のデニーズ・クロスビーはステューウイーに光線銃で殺されてしまう。撮影現場の状況を嬉々として質問するステューウイーにクリンゴン人保安部長役マイケル・ドーンが「撮影は楽しかったがパトリックが目立ちすぎだ」とこぼす。「15年も経つのにまだ反抗するのか」とスチュワートが呆れる。「ウーピーとヤった?」というステューウイーの質問に「飽きるほど」と答えるスチュワート。真面目な声音でここまで言うかと大笑いだ。
そして笑うよりうーんと呻ってしまった話がある。ステューウイーが犬のブライアンを小馬鹿にしたように言う「多元宇宙を知ってる?」。「当然さ 君こそ知ってるのか」とブライアンが言い返す。見え透いた嘘を言うなと言い争いになる。
そしてステューウイーが見せてやるよと手に持った多元宇宙移動携帯装置のスイッチを押す。2人(正確には1人と一匹というべきか)が移動した先は同年同時刻の2人が住む他の並行宇宙。しかしそこは1000年以上も科学文明が進んでいる。人々は反重力制御で浮遊通勤していて天空にそびえるビル群が林立している。ステューウイーがその理由をこう説明する、「キリスト教が生まれなかったので、科学の暗黒時代がなく文明が1000年も進んだ」のだと。タイソン博士もサブ・ゲストの2人(対談相手がメイン・ゲスト。そして毎回コメディアンと専門分野の学者がサブ・ゲストで呼ばれる)も「ここまでやるか」と驚いていた。
マクファーレンは来年、2017年から2018年にかけてドラマとコメディが融合したSFドラメディ・シリーズを放映するという。楽しみだ。
- 定番科学イメージ。重力は他の力に比べあまりにも弱い。
米では高度で最先端の科学知見を子供たちや一般の人々に分かり易く解説して普及しようとする考え方が根付いているように思う。「コスモス」や新「コスモス」のように洗練された大作科学宇宙番組の制作。ディスカバリーチャンネルの「モーガン・フリーーマンが語る宇宙」シリーズ、ヒストリーチャンネルの「アルカリーリ教授のサイエンスレッスン」シリーズ、そしてナショナル ジオグラフィック チャンネルの「スター・トーク」シリーズのように、有名なハリウッドスター、高名な英・理論物理学者や米・宇宙物理学者がホスト役となり、ビッグバン、量子力学、ひも理論、並行宇宙、生命科学などの最先端科学を、洗練されたCGやアニメ、美しい映像を駆使して解説してくれる。
お恥ずかしい話だが、当初管理人はこれら科学啓蒙番組に出てくるホスト役の科学者は外国の三流の学者たちだと思っていた。番組内容も分かりやすく、なるほど、なるほどと分かったつもりでいた。しかしビッグバンやひも理論、M理論、インフレーション理論などのつながりを理解できていなくて、それぞれの科学者が想像力をたくましくして突飛な仮説を発表し合っているのだなあ、と浅はかな理解をしていた。これらの科学番組はだいたい約40〜50分間の中に高度な科学理論をイメージ圧縮して構成されている。当然圧縮を解くと膨大な内容が含まれており、伝えきれず省かれた重要な科学知識もある。
そこで番組で放映された分野の関連著書を購入(専門書や科学解説書類は高いのでまず古本屋を探すのだが)。すると「あれ?この著者、どこかで見た気がするが?」。なんと上記チャネルで放送された番組にホストやゲストで出演していた学者さんたちじゃないか。浅学の管理人が勝手に三流と思っていた教授や学者の人たちだと分かった。三流どころか超一流の学者さんたちだった。しかも常識から遠く外れたSFストーリーのような多次元宇宙や泡宇宙といった仮説も、ちゃんと科学的根拠をベースとしたものであるということがようやく分かってきた。
ここで気づいたことがあるのでご紹介したい。
その前に「定番科学イメージ」について説明をしよう。この「定番科学イメージ」というのは管理人がこれらの番組や著書を視たり読んだりしているうちに思いついた言葉だ。例えば一般相対性理論で重力レンズ効果などを説明するときによく使われる「光が曲がる」という場合。4次元空間をトランポリンの布のようにピンと張った2次元の布に例え、そこに太陽などの大質量の球体を置くと凹みができるという分かりやすい「イメージ」。今では相対性理論を説明したり紹介したりときには必ず出てくる「定番科学イメージ」だ。
この「定番科学イメージ」がひも理論やブレーン宇宙論の説明の時に番組や著書に出てくる。
標準モデルで統合された、自然界の4つの力のうちの3つ、電磁気力、弱い力、強い力。だが重力だけは量子論に組み込まれることを拒み続けている。なぜそうなのかは素人の管理人には分からない。しかし科学者たちは重力が他の力に比べ極端に弱いからだという。「え?そうなの?どういうこと?」と思ってしまう。例えば電磁気力は重力の「100億倍の、そのまた100億倍の、そのまた100億倍のさらに10億倍も強力」(10の39乗倍!)だという。これはヒストリーチャンネルで放映された番組「驚異の高次元空間」の中でホスト役のブライアン・グリーン教授(コロンビア大学・超ひも理論研究で有名)が説明してセリフだ。
そして「地球に引っ張られて地面に落ちた鍵に小さな磁石を近づけると、簡単に引き寄せてしまう」というイメージ映像。巨大な地球の重力に小さな磁石が簡単に勝ってしまうという説明映像である。
同じようにリサ・ランドール博士(ハーバード大学物理学教授。プリンストン大、MIT、ハーバード大で終身在職権を持つ初の女性教授!)の著書「ワープする宇宙」(25頁)
やNewton別冊「次元とは何か」の「第5章 ランドール教授に聞く」(135頁)にも「小さな磁石が地球の重力に打ち勝ってクリップを引き寄せる」というイメージの描写がある。この「磁石とクリップ」のイメージで「弱すぎる重力」について説明している。つまり「定番科学イメージ」である。
彼女はディスカバリーチャンネル「モーガン・フリーーマンが語る宇宙」シリーズの番組「多次元の世界」にも出演していて、重力だけが他の3つの力に比べ極端に弱いという謎を、ヒモ理論を使って、並行宇宙の他のブレーンとをつなぐ余剰次元に自由に拡散する閉じたヒモであるためと説明している。